文フリ無配

25/8/24の文フリ札幌で配布した文章です。
上から詩二つ、2000字いかない程度の短編小説一つです。

「存在証明」

私=I
しかしI≠i
虚数も私の人生も非実在だが,iは役に立つ
i≒愛
愛も実在しないが,彼らに都合の良い夢を見せ続けている

私は中身の溢れたフレーム
スラッシュの無い終了タグ
事象の地平面で時間をはかること

重い体の中で記憶が圧縮される
重力崩壊を起こし,観測が止まる
あるのに無い あるのに見えない
地獄の時が凍りつく

舌に触れるポテトスナックをつまんだ指先
氷枕で眠る
誰とも目線が合わないこと

心臓が鉛になる、味は砂に変わる
私はまだここにいる
それを証明できなくても,私の地獄はここにある.証明終了

「id="me"」

<!doctype html>
<html>
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<meta charset="unclassifiable">
<title>Hello,world!</title>
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</head>

<body>
<header>
<p>No one said, "Show the light."</p>
</header>

<main>
<article class="world">
<section class="life">
<p>Love,Peace,Kindness,Happiness,Link</p>
<p>Family,Friends,Lover,Everyone</p>
</section>
</article>

<article id="me">
<section class="immature">
<p>ぬいぐるみ</p>
<p>一人でいたいこと</p>
<p>みんな嫌い。馬鹿だから。</p>
</section>
<section class="hell">
<p>机を離されること</p>
<p>誰かが怒鳴っている</p>
<p>私を通り過ぎる</p>
</section>
<section class="blank">
<img src="images/blank.jpg" alt="白紙">
<p>
後ろを振り返っても、私が崩した地面が見えるだけだった。
</p>
</section>
</article>
</main>

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以下は共同出展させていただいた六月ミウさんとお題を互いに出し合い書いた文章です。

お題「偶像崇拝」
タイトル「私のための花」

 たんぱく質の焼ける嫌な匂いをさせながら燃える私の髪と、それに気付かないあなた。あなたをそれで温められるなら、それだけで満たされていたはずだった。

「あは、超うける!」
 私の大好きなひまわりの声が教室に響く。みんなは遠巻きに、なるたけ近寄らないようにしてる。
 教室はモザイクのように、オレンジ、黄色、緑など極彩色に染まっていた。みんなの机や椅子、黒板までもが色を変えている。
 ひまわりの手にはペンキの缶が下がっている。彼女が、それを手で塗り広げたり、適当にぶち撒けたりしたのだ。さっきまではみんなも慌てたり騒いでいたが、段々静かになっていった。
 自分の制服や髪が染まるのも気にせずはしゃぐ彼女。
 眩しい。ひまわりはいつも眩しかった。私もああなれたら。
 大きな目、白に近いウェーブの髪、伸びた透き通るような手足。他人を一切考慮しない言動。憧憬を抱いている。
「おい朔!お前また何やってんだ……高校生にもなって、常識身につけろ!」
 くだらない教師がひまわりを怒鳴りつけてる。そんなの意味ないのに!

 風がなく、ただぬるい空気が広がっている。辺りには雑草が好き放題生えている。有刺鉄線の破れたところから中へ入り、私とひまわりは進む。
 今日は学校をサボって、彼女が「良いところを見つけた」と言うから、せがんで着いてきた。
「ねえ、待ってよ、ひまわり」
 彼女は私を気にせずずんずん進む。舗装されない道は石などもあり、歩きにくい。
「月ってとろいね」
 背を向けたまま、またそんな酷いことを言う。ちょっとムカついたが、言い返すと大変なことになるから黙っておく。
「……あ、そうだ。ひまわり、これ……今のうちに渡しておくね。誕生日、そろそろだよね?おめでとう!」
「……なにこれ?」
「開けて開けて!」
 ひまわりが黄色いリボンを解き、小さな箱を開ける。中には、白と透明なビーズで作られたブレスレットがあった。ワンポイントでヒマワリの花のモチーフがあしらわれている。
「へーえ。作ったの?」
「うん、そう。不器用だけど……何回も失敗したけどがんばったよ!絶対使ってね!」
 ふうん、と言いながら彼女の細い手首を、ビーズの光の輪が飾るのを見て私はニヤニヤした。

 暫くして、彼女の足が止まる。どうやら着いたらしい。
「ここ……どこ?何もないけど…」
「ため池の埋立地。誰も来ないから、好きなだけ騒げるよ」
 早速リュックを開け、中から花火セットや爆竹、カイト、折り紙などを広げるひまわり。白いワンピースが陽に映え、青い影を落とす。サンダルから覗く足の指さえ素敵に見える。
 そんな彼女を横目に、数歩踏み出した途端。足元がぐらつき、気付くと沈み込んでいた。
「え?」
 ハッとしたときには、もう太もも辺りまで私の体は沼のような、泥のようなものに引き摺り込まれていた。
「あっ……!」
 思わずひまわりに手を伸ばす。彼女は驚いた顔をし、一歩踏み出したが、そこで止まった。その間にも、私はずんずん沈んでいく。暑い外気と違い、泥はいやに冷たく、それが更に恐怖を増す。化け物に飲み込まれていくようだった。足は重たい泥に絡め取られて動かせないし、手をついても、そこから沈んでしまい、一人では抜け出せそうにない。
「助けて!ひまわり!誰か呼んできて!!」
 喉を張り上げてなんとか叫ぶ。ひまわりは、先程出した荷物をただしまっていた。今度はこちらを見もせず。
「ひまわり!!!!!」
 もう胸の辺りまで地面に捕らわれながら絶叫する

が、彼女は既にリュックを背負い、腰を上げようとしていた。私が助からないのかもしれないとは薄々感じていた。

 生徒たちはまた騒いでいた。学校の備品であるバスケットボールや、教科書、プロジェクターなんかが屋上から降ってきたのだ。
 下校時刻で、帰宅する生徒がわらわらと集まる。
「ぎゃ!あぶな!!」
「あー……どうせアレでしょ?あの子」
「朔さんまたぁ?」

 屋上は強めに風が通り、白い花弁のようなひまわりの髪が舞う。
「ははは!みんな驚いてる!おもしろーい!」
 下ではボールが跳ねたのが当たり痛がっている子、見上げながら怒鳴っている子、無視して歩く人などがいる。機械が砕けて飛び散る音が辺りに響く。
「そろそろ先生来るかな……。あ、これも」
 いらない。そう独り言を溢して、手首に嵌っていたブレスレットを、笹舟でも流すような手つきでフェンスの向こうへ放る。
 傾きかけた陽を反射し、水面のようにキラキラ輝きながら、それは落ちていく。

 私はヒマワリの花を見つめていた。花はどこをも見てなどいなかった。
 それだけ。

♡END♡